セックスフレンドがいた(1)

泣き出してしまった自分の泣いている理由がわからないのは珍しいことだった。だからわたしは今日筆を取ることにした。


経験人数は十の位を四捨五入したら3桁になる頃に数えるのを諦めたが、その頃に同時に数の増加も止まった。その頭打ちになる少し前の話だ。


4年付き合ってセックスレスになるのは普通のことだと何度自分に言い聞かせたことだろう。それでもかなしみは消えなかった。だからわたしは恋人以外に性愛を向けた。その夏に縛り付けられたわたしはそうすることしかできなかった。


干支の近いその人とわたしは互いに相手が自分のことを憎からず思っていることを互いの目を見て知っていた。しかしその匂いをいい匂いだと自分が感じることを、わたしはその夜初めて知った。


その人はいつでもわたしに結婚指輪をはめてくれると言ったが、わたしが結婚したいのは恋人であってその人ではなかった。でも恋人とは結婚できないと知っていたから、わたしの心は振れても意味のない方向に振れて痛かった。まぼろしの結婚指輪がわたしの左の薬指で何度も光った。


新宿のラブホテルの風景とその人の匂いが結びついてしまったのだと知ったのは、2年後に電車で出会ったときだった。隣に座るその人に、何度話しかけようとしても、恋愛の絡まない話題が思いつかなかった。たった2駅が長くも短くも感じた。

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神崎琴音