詩/また同じ

汚い、汚い、汚い、性を綺麗に言い換えただけの愛、そこには含まれずにこぼれてしまう愛、自分の引き出しの乏しさと、子宮口の微かな痛み、混乱の中にもたち現れるのは自分の愚かさ、また恋愛、薄ぺらい、毎度毎度懲りずに同じ理由ばかりで泣いている、愚かしい、通り一遍の、繰り返し、繰り返し、全てなんて吐き出せないけれど、魂の抜けたような気だるい身体でそれでも思うのは歌うこと、歌うことなんだよ、シンプルな脳みそに生まれついたことに感謝だね、興奮の水面が収まっていく、また、「わたしは平気」という型に精神がまとまり踏み固められはじめる、手垢にまみれた粘土みたい、それでも生きてやる、と思う先が芸術ですか、そうですか、当選おめでとうございます、あなたの分類はここです、聞き飽きた宣告が今日もじんじんと、

世界のすべてを愛したかった

泣きながら「好きだ」と言った記憶がある人は世界にどのくらいいるだろう。きっと掃いて捨てるほどいるだろう。わたしもその、「掃いて捨てるほど」を経験した、ありふれた人間のひとりだ。 ポリアモリー、なんて言葉がわたしの人生に輸入されたのはごくごく最近、30歳も視界に入ってきたここ数か月の話で、肩こりの概念がなかった昔の日本には肩こりがなかったというが、言葉がなければ概念は存在しないのだった。「月が綺麗ですね」。今となってはあまりに擦り切れさせられてしまった愛の言葉だが。 10年前、好きな人のもとに向かいながら、恋人に向かって電話越しに呟いた、別れの言葉だった。あなたのことが好きだけれど、好きな人ができてしまった。人として誠実であるためにはどちらかを選ばなければならない。あなたのことは好きが100あったとしたら100好きだけれど。わたしは、あの人のことを、「愛してる」と思った。あなたには思えなかった。だから、わたしは「愛してる」を選ぶ。ごめんなさい。18歳とは、こんなにも残酷になれるものだったのだ。これを書いているのは10年以上後の新宿のカフェなのに、18歳の夜から逃げ切ってすっかり大人になったつもりでも、それでも苦しくなってしまう。初夏の夜、歩くわたしの頭上には月が出ていた。 月が。月が綺麗ですね。 わたしたちはそう言い合った。 わたしは元恋人との電話を切り、電車に乗り、愛している人の胸...

詩/存在の詩

癒してあげる、とわたしが言う、 そのとき損なわれるわたしの部分を、 あなたはいとおしいその名でよぶ、 さびしいと言えてしまうほど愚鈍で平凡な、 あなたを見ていられないの、 どうしてかみさまはわたしに、 愛することのできる身体を与えたの。 しんでいいよ、とだれもゆるしてくれない。 きれいだね、かわいいね、 きみのこころはうつくしいね、 花が咲いたら見違えるようでしょう、 美しい言葉に耐えられぬ世界は醜いですか、 こちらでは夜空に可憐な星が散っています、 すべての形容詞を拒絶するあなたに。

返信不要です

KくんSくんから訃報を聞きました。お疲れ様。Kくんとは、学生時代のある日にカフェで何時間も喋っても飽きなくて、最後は戸山公園を散歩しながら話していたらおしりを出した変質者がいて、二人で無言で逃げ出してその場を離れてから、大笑いしたことをよく覚えています。その時、ああ、この人とは一生友達でいるんだろうなと思いました。素晴らしく美しい時間をくれて、確かにわたしの人生に明かりを灯してくれてありがとう。ゆっくり眠ってね。また来世であいましょう。琴音より

詩/無限と琴線の詩

恋することができるなら、きみは花びらと同じだけ価値があるよ。見たことないほど鋭利な星の美しさの、その真ん中に位置するのがきみの使命、そう告げることをためらわないほど、うつくしく偏った人間になりたかった。わたしの声は穏やかですか、当たり障りがないですか、この声で切実な音楽とことばを発することを、どうか、人間のいのちであるとみとめてくれやしないだろうか。存在は、影のある実存は、手の届くところにあると思っているうちが花だって、言われなくても知っている。

セックスフレンドがいた(4)

「結婚しよう」と、生まれて初めて言ったのだった。ニはわたしを好きになった。わたしもニを好きになってしまっていた。どちらが先かわからない。わたしたちは一緒に行ったカラオケボックスで気がついた。「好きになっちゃったね」。ニの社員寮は女子禁制フロアだった。が、そんなの恋する二人にはスパイスでしかなく、ニの一人暮らし8畳1Kのお城に迎え入れてもらえることが、心底嬉しかった。狭いキッチンについでに並ぶ化粧水もコーヒーサーバーも、ことごとくセンスが良く、わたしはつくづくニが好きになるばかりだった。ニのユニクロの部屋着を借りて、本棚のラインナップを眺め、わたしたちは通り一遍のくすぐったさを享受した。これが仮の状態だと、知っていたからあんなに混じり気なく幸せだったのだろうか。恋愛の作法は一通り知っている大人の、王道な塗り絵を二人でなぞるような恋だった。ニは関西のひとだった。やさしい関西弁が愛しかった。ニが1ヶ月後から関西に戻ることが決まった。遠距離でもいいと迷いなく思うほど、わたしにとってニは唯一無二の存在になっていた。だがニは決してうんと言わなかった。東京で夢を追うわたしに、いつの日かこの場所を離れる約束はさせられない、わたしが演劇を辞めるのを待つのは絶対に嫌だと。それなら、わたしは。わたしは、今、演劇か愛かを選ばなければならないと思った。それはわたしにとって人生の半分と半分、つまりすべてで、ど...

セックスフレンドがいた(3)

もう一人、の話をしてもいいだろうか。バンドマンと付き合うと歌にされるというが、わたしとセックスフレンドになるとポエムにされるということを、人類諸君は思い知らなければならない。それにわたしはかつてバンドマンと付き合っていて歌詞に現れる二人称のすべてを自分に重ねていたこともあるのだからなめないでほしい。その人が現れて(もう消えてしまったが)、もうすぐ2年になるのだ。記憶があまりに痛々しく、熱を持っているようで、2年、という冷静な言葉がしっくりこない。というより、書かないと忘れてしまいそうなのだった。忘れてしまえ、と言われるだろうが、優しいわたしは忘れてしまうこともできないのだった。かなしく燃えるような記憶。彼をニと呼ぼう。ニはクリスマスイブの夜に、少し上目遣いではにかみながら、交差点を渡ってきた。スーツにコートにビジネスリュック、しごくまともだがセンスの良さが瞬時に伝わる、まるで気の利いた人だった。クリスマスイブだというのに、なぜかぴったり給料日前日で家に帰る電車代もなかったわたしは、タクシー代と引き換えに遊んでくれる人を、ツイッターのサブアカウントで半分本気で募集した。そこで助けにきてくれた、よく考えると頭のおかしな、もう一度言うがしごくまともな大人がニだった。まともな社会人のニは、律儀にも小綺麗な革財布から1万円札を取り出して、タクシー代に、と出会って3分も経っていないわたしにくれ...

詩をプレゼントした(5)#ミスiD2022

#いいねしてくれた人がもし詩だったとしたときの最初の一文を考えるついに、該当ツイートへのいいねが100を超えた。ありがたい限り。まだ全員には書けていませんが、100を前にして一旦まとめ。詩ってなんなんでしょうね。自分で書いているけど定義は言語化していません。これはみんなの意見です、常温のナイフを誰もが隠し持っている、それを知っているぼくは世界でただ一人だけ、この秘密を一生きみに伝えずに済みますように。他疎(たそ)さん @Taso_5_s瓶に詰めた手紙を海に流せるほどのロマンチストになりたかった、きみに会えなければ背筋を伸ばす意味もない、理解という言葉の暴力性を盾にしてしか歌えない声。西ちなみさん @_nishidesu_一生味方でいてね、言いたくないことと言えないことの境界がわからない、正義感や見えない友情の絡まりを電熱線で焼き切って。ゼロさん @zero__emotion花が咲いたら見違えるようでしょう、美しい言葉に耐えられない世界は醜いですか、こちらでは夜空に可憐な星が散っています、すべての形容詞を拒絶するあなたに。花冥一女子さん @DOGURA_3崖から飛び降りるくらいの決心は、いくらでもできてしまう、わたしをきれいなものと一緒くたにしないで、きみのためにたった一つの暗闇になるよ。雪柳花梨さん @yukiyanagikarin等間隔で並んだ机は人の善意をあらわしていて、だから...

詩をプレゼントした(4)#ミスiD2022

詩のプレゼントを相変わらずツイッターで続けている。主にミスiDエントリー中の女の子に宛てたもの。そのひとを思い浮かべて書くので、当たり前だけどやはり人によって全然違う詩ができる。捨ててしまいたい、と思う心は悪ですか、雨に濡れた子猫をかわいそうだと思えない、それでも愛を受け取って、呼吸をしている、僕がいるのは世界の端っこ。原気楼さん@sukisukipiopioわたしは世界の味方です、と言い放てるほどの美しい声に生まれたかった、クリームソーダの色に隠れて、ぼくに好きだよと呟いて。街井紫乃さん @smr_myon大好きだよ、なんて暴力的な言葉、だれが考えたのだろう、世界では今日も愛が交換されて、愛のない人は人ではないと言っているみたいだった。パトラ子さん @P__papapa最初からわかっていた、と言うのは大人の欺瞞です、乾いた床が音を立てる、その音だけが世界で一つの優しさみたいに思える、枯れ葉のようなぼくの決心を孤独と呼ばないで。大間知賢哉さん @omachikenya叶わない夢を追うことを美しいと呼ばないで、ぼくの舌だけがほんとうを喋る、言葉とは気持ちの代替品でしょう、嘘をついて、進む、また一歩。LUMIさん @lumi_parade三日月みたいに綺麗になりたい、なんて嘘だった、わたしはお花、輝く星、美しいひかりはあなただけのものよ、なんて月並みな嘘を吐くばら色の唇。有栖依万さん ...

詩をプレゼントした(3)#ミスiD2022

ツイッターで行った詩のプレゼント、#いいねしてくれた人がもし詩だったとしたときの最初の一文を考える 第3弾。ソウルメイトから、選ぶ単語の飛躍から立ち昇るものの身体性のオリジナリティを褒めてもらった。やろうとしていたことが外の人にも伝わっていたのか、と思って嬉しかったです。風船ガムのような軽率さに憧れたなんて恥ずかしくて言えなかった、真実以外のことばかりがすらすらと口をついて出てくる、着色料に塗り潰されたわたしのほほえみが、みずみずしく燃え尽きる。らいぴーさん @liferairai約束なんてしていないけど今夜もあなたと会えるでしょう、きれいな言葉だけしか使わずにわたしをダンスに誘ってください、飽きるほど聞き飽きた褒め言葉を飛び石のように軽々と伝って。ゆきさん @Neve0yu新聞の一面に載るほど重要なことなんてこの世にありません、電車を乗り継いでしか行けない特別な雪国では囲炉裏で善良な心が燃えているそうです。Say_no…y223さん @Y223No息を切らすまで夜通し走っていたかった、見えていたはずの色がわたしの擦り切れた切望に照らされてひかりに変わる、押し付けられた感動になんてきみの心を渡さないで。しお さお りさん @litchis30また夢の話でしょう、そう言われるからわたしはポケットの中で拳を握る、鳴り止まない子守唄の手触りが、髪の毛の端で揺...

詩をプレゼントした(2)#ミスiD2022

ツイッターで、#いいねしてくれた人がもし詩だったとしたときの最初の一文を考える というのをやってみた。そしたら思っていた以上にたくさんの人の目にとまり、詩の千本ノック状態になったのだが、これが良い目の回り方という感じで心地よかった。今まで書きたいことはある気がしてもなかなか取っ掛かりがなかったのが、テーマさえあれば書けるということがわかった。詩にしてほしい人がたくさんいるということもわかった。なかなかいいものが書けた気がしたので、みなさんへの感謝とともに、ここにまとめます。たくさんある、第二弾。絶世の美女は暴力です、モーツァルトなんて僕に聞かせないで、息をつく隙もないほどの称賛の雨、現代、雑音、後ろ髪引かれるほどあの子の名前が好きだった。 金澤ゆまさん @mayby_superstarきみの好物がたべられないからぼくは永遠の鉄格子の中にいる、雑踏の中では悪意も優しさも振動として伝わるね、新しいドレスが似合ってないねときみにいらない嘘をつく。 岡田 悠さん @Yu_Okada鏡よ鏡、と呟いたのに目をとじて、世界への嫉妬を磨き上げたみたいな赤いりんごになれたらいいね、満たされなかったなんてほんとうは嘘だったんでしょう。 ゆうぴこさん @yupiko_k1010プライドと虚勢はどちらが果たして正義ですか、美しくないものでも生存していられることが不思議と腑に落ちる、希薄な愛の輪郭を、今日も...